千年にわたり受け継がれる風習の流れを探る-ベトナム伝統的な慣習ーテト(3)

バインチュン、バインザイ ― 「天円地方」の哲理を緑の葉に包んで

春の訪れとともにベトナム人の民族意識を呼び覚ます象徴的な存在があるとすれば、それは豪華な宴ではなく、祖先祭壇に整然と供えられた緑鮮やかなバインチュンである。日本において白く清らかな鏡餅が年神(としがみ)への祈りと清浄を象徴するように、ベトナムにおけるバインチュンとバインザイの一対は、孝心・人生哲学、そして幾世代にもわたり人々を支えてきた「穀物の宝」としての米への敬意を体現する文化的宣言といえる。

NGUỒN GỐC VÀ Ý NGHĨA SÂU SẮC CỦA BÁNH CHƯNG , BÁNH GIẦY TRONG TẾT CỔ TRUYỀN VIỆT NAM - Golden Event
誠実さと天地の恵みをめぐる伝承

この二種の餅の由来は、建国期の雄王時代に遡る。王位継承を巡る供物競争において、他の王子たちが山海の珍味や遠方の宝を求める中、農耕とともに生きてきた貧しい王子ラン・リューは、故郷の米に価値を見いだした。神の導きのもと、彼は円形の餅(天を象徴)と方形の餅(地を象徴)を創案する。これこそが、豪奢な献上品を凌駕した理由である。そこには農耕民族としての勤勉さと、祖先への感謝の念が凝縮されていたからである。

稲の霊(いなだま)を尊ぶ日本の読者にとっても、この思想は深い共鳴をもたらすであろう。ベトナムでは、米は天地の精華であり、自然からの最も尊い贈与と考えられている。「テト(Tết)」という語は本来「節(Tiết)」に由来し、季節の節目、すなわち収穫と新年の転換点を意味する。ゆえに、もち米から作られた餅を祖先に捧げる行為は、単なる食物の供献ではなく、一年の労苦と精神そのものを奉じる行為なのである。

陰陽思想と宇宙的調和

バインチュンとバインザイは「天円地方(てんえんちほう)」という東洋的宇宙観を体現する。白く円満なバインザイは天と陽を象徴し、純粋さと永続性を示す。熱いもち米を丹念に搗き上げる工程は、忍耐と力を要する高度な手仕事である。一方、緑のドン葉に包まれた方形のバインチュンは地と陰を象徴し、滋養と生成の力を表す。

両者が祭壇に並ぶ姿は、天と地、陰と陽、人と自然の調和を祈る象徴的構図である。一つのバインチュンの中には、村落の生態系が凝縮されている。田からのもち米、大地の緑豆、家畜を象徴する豚肉、そしてそれらを結束する竹の紐。葉の重ね方や結束の技術には高度な熟練が求められ、その精神性は日本の「ものづくり」の理念とも通底する。

味わいの美学と生活の知恵

バインチュンの切り分け方にも独自の美意識がある。粘性の高いもち米を美しく分割するため、通常は刃物を用いず、包んでいた竹紐を交差させて八等分する。視覚的にも美しいこの所作は、日常に宿る知恵と洗練を象徴している。

北部では酢漬けのラッキョウ、中央・南部では甘酸っぱい漬物とともに供されることが多い。酸味と辛味が脂の旨味ともち米の甘みを中和し、味覚の均衡を生む。緑豆のコク、胡椒の香り、魚醤の塩味が重なり合い、調和の取れた食体験を創出する。

正月明け、表面が乾いた餅を焼き直すのも定番である。外は香ばしく中は柔らかな食感は、多くの人々の原風景となっている。バインザイは豚肉ハム(giò lụa)を挟み、来客へのもてなしや軽食として親しまれる。

冬のかまど ― 絆を育む時間

バインチュンを特別な存在にしているのは、十時間以上煮込む過程にある。冬の寒夜、家族が囲炉裏を囲み語らう時間は、世代を超えた結びつきを深める。最良のバインチュンとは、高級店の製品ではなく、薪の香りと家族の労苦が染み込んだ一品である。

いかに社会が近代化しても、方形の餅は文化的遺伝子として存続し、海外に暮らす人々にも帰属意識を呼び起こす。

日本の皆様がバインチュンやバインザイを手に取るとき、それは千年の文化遺産を手にすることに等しい。緑の葉を丁寧に開き、ベトナムの郷土の香りを感じ、天地と人々の心を味わっていただきたい。

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